ササニシキへの想い

ササニシキとは

ササニシキは、1963(昭和38)年に宮城県古川農業試験場でハツニシキとササシグレを掛け合わせて誕生しました。
コシヒカリと比較するとあまり粘らず、口どけの良さと滑らかなのどごしが特長の、あっさりとした食感が持ち味です。

美味しいおかずを指して「ご飯が何杯でもすすむ」と言いなされた際のお米は、このササニシキの特長を表わしたものと思われます。
昔ながらの「銀シャリ」の味は、このササニシキの味だといえるでしょう。
また、冷えても味が落ちにくいという特徴があります。そのため、寿司米や、お弁当に使用するお米としても最適です。
ぱらぱらとほぐれやすい性質であるため、チャーハンや雑炊にも向いています。
もちもちとした粘りが特徴のコシヒカリやミルキークイーンとは対極的な味わいといえる品種です。

なぜ「幻の米」になりつつあるのか

ササニシキは、かつてコシヒカリと並び「二大横綱」と称されるほどの人気ブランド品種でした。
ピークの1990(平成2)年には20万haを超える面積(品種別作付面積で全国第2位、東北地方では第1位)で生産されていました。

しかし、「気象被害を受けて倒れやすく、病気にも弱い品種」とされ、1993(平成5)年の冷害で大きな被害(収穫量の激減)を招いて以来、生産量が大幅に減少しています。
東北の農家がいっせいにササニシキを見限り、「ひとめぼれ」などのコシヒカリ系統の品種に転換してしまったのです。(※)

また、コシヒカリは他の安価な品種とブレンドしても美味しさが失われにくいという特徴があるのに対し、ササニシキは100%使用でなければその美味しさを発揮できないという特性があります。
このことが流通業者から「利ざやが少ない品種」として敬遠され、市場から姿を消していったとも言われています。

ササニシキは「弱い品種」なのか

ササニシキが「収穫前に倒れやすく、病気にも弱い」という理由で東北の農家から敬遠されたのは事実です。
しかし、それは農業の近代化が招いた「誤解」ともいえます。

ササニシキが生まれた当時は、まだ田植え機や化学肥料が広く普及する前の時代でした。
誕生当時のササニシキは、丈夫な苗(成苗)に育てられてから1本1本手で植えられていたのです。
ところが田植え機が普及すると、効率重視で小さな苗(稚苗)を5〜6本束にして植えるのが常識となりました。
このことがササニシキにとって致命的だったのです。

ササニシキは「多分けつ型品種」の系統で、1本の苗が非常に多く株別れするのが特徴です。
たった1本の苗が、太くたくましい稲株に生長するのです。
そのササニシキの苗が5〜6本もの束で、さらに坪70株や80株で植えられると、たちまち過密な状態になってしまいます。
まるで都会の満員電車のようなものです。

稲が密植状態になると風通しが悪くなり、イモチ病などの病気にかかりやすくなります。
また、陽射しが通りにくくなると光をもとめて上に向かって延びようとし、結果的に茎が細く弱くなって倒れやすくなってしまいます。
生長初期に化学肥料の影響で不自然に背が伸びると、この傾向はいっそう強まります。
ササニシキはもともと決して弱い品種だったのではなく、農業の近代効率化に伴う機械化や肥料との相性がよくなかったのだといえるでしょう。

ササニシキの低アレルギー性

食物アレルギーのうち、米が原因となって起こるアレルギーには少なくとも2種類のタイプがあることが知られています。
1つは、従来から研究されてきた、タンパク質がアレルゲン(アレルギーの原因物質)であるタイプ。
このタイプのアレルギーの方は、タンパク質を減らす処理をした低タンパク米や、玄米の表面を30%削った高度精白米ならば症状が出ることなくお米を食べることができます。

もう1つのタイプのアレルゲンは現在も研究が進行中ですが、特定の澱粉(でんぷん)質の可能性が高いとされています。
このタイプのアレルギーでは、米の品種によってアレルギー症状の現れ方が異なり、祖先に「もち米」をもたない、粘りの少ない品種ではアレルギーを起こしにくいことがわかっています。

一般の飯用米である「うるち米」がアミロペクチンとアミロースの2種の澱粉質で構成されるのに対し、もち米は100%アミロペクチン(アミロース0%)です。
うるち米も、近年の嗜好傾向ではアミロペクチンが多い(アミロースが少ない)ほど「食味が良い」とされています。

主な品種別のアミロースの平均的な値は、ミルキークイーンで10%前後、コシヒカリが15%前後であるのに対し、ササニシキは20%前後と、アミロースの含有率が高いのが特徴です。
そのため、近年では低アレルゲン米としても、ササニシキに注目が集まっています。

ササニシキへの想い

上記に挙げた理由から、このような素晴らしいお米が年々栽培されずに消えていくのは、農業者として、見るに堪えない事態です。
それも含め、なにより中川吉右衛門の想いの原点は、日本人に「お米を沢山食べてほしい!」と言うことです。

このササニシキが生まれた昭和38年ごろ。日本人の一人当たり、年間の米供給量は118キロ。
それが、平成18年では61キロと約半分になっています。
わずか50年足らずでご飯を食べる量が半分になっているというのはかなり深刻であり、これからこの数値は下がることはあっても上がることは無いに等しいでしょう。

そこにきて、これからますます進むであろうと思われる、少子高齢化が日本全体の胃袋を小さくしていけば、お米を食べる量がへっていくのは必然です。
そこにきて、今現在主流になっているお米の新品種は、美味しいお米ではありますが、量が食べられないお米ばかりです。

このササニシキは、量が食べられるお米です。
理由は先にも上げた、純粋な「うるち米」にあります。
もち系の祖先をもたないササニシキは、沢山食べても消化器官に負担がかかりづらいお米です。

主食であるお米を国民がほとんど食べなくなってしまったら、日本農業の衰退に拍車がかかります。
農業とはただ農産物を生産するだけではありません。
暮らしと直結しているものであり、伝統と文化の伝播であり、また国の環境保全を担う最も大切な産業のひとつであり、その役割は多岐にわたります。

このような「農」を未来永劫守っていくため、皆さんに美味しいお米を沢山食べて頂きたい!!との思いが、この天然農法のササニシキへのこだわりになっています。